文政年間 創業。地元で150年愛される『浦野醤油醸造元』のお醤油は、なぜこんなにも美味しいのか。
江戸末期、文政年間。勝海舟や西郷隆盛、大久保利通など今日の日本の礎を築いた偉人らが誕生した時代に、浦野醤油醸造元も生まれた。
以来150年にわたり、ここ豊前市で醤油づくりの歴史を重ねている。150年も地元の人々に愛される理由を紐解き、浦野醤油醸造元ならではの醤油へのこだわりを掘り下げてみたい。

◆趣あるたたずまいの、浦野醬油醸造元。
訪れたのは、豊前市八屋にある浦野醤油醸造元。昔ながらの醤油蔵のようなたたずまいに、少し色あせて渋みを出した看板。ここだけがタイムスリップしてきたかのような趣を感じる。
中に足を踏み入れると、柱や梁の一つひとつにも歴史が感じられ、どこか気持ちが張り詰めるような気がした。
店頭には、浦野醤油醸造元がつくるお醤油や甘酒、ドレッシングなどが並んでいる。豊前で生まれ育った私も『まるは醤油』は味わったことがあったが、こんなにたくさんの商品を製造・販売されているとは知らなかった。

◆150年の時を経て、6代目夫婦へ。
浦野醤油醸造元の初代は、古い書物から“濱屋文平”という人物だとされている。現在の浦野醤油醸造元の屋号である『まるは』は、この“濱屋”から来ているそうだ。昔から浦野醤油醸造元を知るお客様からは、親しみを込めて「まるは醤油」と呼ばれている。
現在の当主は、文平から数えて5代目の浦野惇美さん。醤油のみならず、麺つゆやポン酢、ドレッシングなど幅広い商品を開発することで、浦野醤油醸造元の新しい歴史を築いてきた。
そして令和を迎えた今、浦野醤油醸造元のこれからを作っているのが6代目夫婦だ。今回は6代目の奥さんである浦野敦子さんにお話を伺った。
敦子さんはもともと醤油とは全く別業種で働いており、結婚を機に浦野醤油醸造元で仕事を始めた。最初は醤油づくりのことなど分からず、手探りの日々だったという。5代目や女将さん、そして夫である6代目の雅人さんらから教わりながら、必死に努力してきたそうだ。
醤油づくりをイチから学んできた敦子さんだからこそ、その言葉には分かりやすさがあり、そして商品への愛情も感じられた。

◆甘みとコク、そして旨味。塩カドのない、まるは醤油。
浦野醤油醸造元のお醤油は、九州特有の甘さがある。だが、それだけではない。他にはないまろやかさや深いコク、そして強い旨味がまるは醤油の味わいを作っている。
「ウチのお醤油って、塩分濃度が低いんです。普通のお醤油はだいたい16%くらいで、ウチは13%くらい。塩分が少ないからこそ醤油がまろやかになって、甘みや香りがしっかり感じられるんですよ」
甘みだけが際立つのではなく、お醤油本来の香りや旨味が味わえるのも浦野醤油醸造元の醤油ならではだろう。

◆昆布でまろやかに。色々な料理と合う『昆布だしかけ醤油』
最初に紹介したいのは、贅沢にも再仕込み醤油をベースに使い、昆布を漬け込んでまろやかな旨味を引き出した『昆布だしかけ醤油』だ。
再仕込み醤油とは塩水の代わりに醤油を使って醸造した醤油のことで、手間も時間も掛かる。それだけ濃厚に仕上がり、旨味や香りも強い。
「このかけ醤油は、近くのお豆腐屋さんからの依頼で作ったんですよ。お豆腐にあう醤油がほしい、って。冷ややっこはもちろん、色んな料理に合うので、卓上醤油として使ってもらってもいいと思います」
お醤油の旨味と香り、そして昆布のまろやかな味わいが、料理を引き立ててくれる。「お醤油はコレ」と家ごとに決めているものもあるかもしれないが、『昆布かけだし醤油』であれば手に取りやすいのではないだろうか。ぜひ、まずはお豆腐にかけて頂きたい。

◆丁寧にとった白だしで作る、出汁の風味豊かな『つゆ』
「ウチのめんつゆは、ものすごく手間が掛かってます。甘口醤油をベースに白だしを加えているんですが、この白だしをしっかりとっているのが特徴です」
市販のめんつゆは、風味や味わいを強くするために、エキスや粉末出汁が使われていることが多い。それはそれでもちろん美味しいのだろうが、やはりきちんととられた出汁の風味は生み出せない。
「3倍濃縮、5倍濃縮という商品もあると思うんですが、ウチは2倍です。濃縮しすぎると、出汁が入らなくなりますから」
しっかりと出汁をとり、“かえし”とあわせ、浦野醤油醸造元自慢のお醤油をベースに作る。丁寧に作られているからこそ、風味の良さやおいしさは格別だ。
おすすめの食べ方は、やっぱりそうめんやお蕎麦。他にも煮物や炊き込みごはん、親子丼など、幅広い使い方ができる点も魅力だ。

◆浦野醤油醸造元を代表する味のひとつ『甘口醤油』
「塩分が低くてまろやかなお醤油です。この『甘口』はウチの商品の中でもけっこう甘く仕上げています」
ラベルには『甘口』のシールが貼られている。私も使ったことがあるが、カドが無くまろやかで、どんなお料理にもマッチする。卓上のお醤油としても使いやすい。
「長く使ってくださるお客さんが多い商品ですね。煮物や煮魚にこれを使ってもらうと、いつもよりまろやかに仕上がると思います」
確かに浦野醤油醸造元のお醤油で煮物を作ると、塩味が強くなく、魚やお野菜など素材のおいしさがしっかり残る。それでいて、まろやかで上品なお醤油本来の味わいもある。
ほとんどの方はご自宅で普段使われているお醤油があると思うが、ぜひ一度、試しに浦野醤油醸造元のお醤油で料理をして味を比べてみてほしい。

◆シンプルだからこそ、素材と製法にこだわりぬいた『丸大豆醤油 本醸造』
「九州のお醤油は、お醤油にアミノ酸液を加える“混合醤油”という作り方が一般的です。だから、甘さや旨味がしっかりとありますよね。でもこの『本醸造』は、アミノ酸液を足さずに、昔ながらの素材・製法でシンプルに作ったお醤油です」
甘みは一切加えておらず、お醤油本来の味だけで勝負したシンプルな商品だ。混合醤油中心の九州でも、近年はこうした商品も増えているという。
「大豆は福岡県産の“ふくゆたか”、小麦も福岡県産の“チクゴイズミ”と“ミナミノカオリ”、そして塩は長崎県産のものを使っています。素材も作り方もシンプルだからこそ、醤油本来の香ばしい風味や、火を入れたときの香りの立ち方が違いますね」
九州ならではの甘いお醤油も捨てがたいが、素材へのこだわりを詰め込んだ“本醸造”も捨てがたい。甘みを抑えたいお料理で使うなど、場面ごとの使い分けもできそうだ。

今回の記事では、浦野醬油醸造元が作るお醤油について掘り下げてきた。150年という長い醤油づくりの歴史の中で培ったその味は、地元を中心にたくさんのファンに愛され続けている。
今回ご紹介したのは代表的な4商品。お好みに合わせて、ぜひお好きな商品を試してほしい。